配偶者は相続税が軽減されるって知っていますか⁉1億6,000万円を取得しても無税になります!

配偶者

相続税には多くの税額控除の制度がありますが、中でも納付税額に大きな影響を与えるものに配偶者の税額の軽減があります。配偶者の税額の軽減を上手に適用することで相続税の負担を大きく下げることが可能になります。

今回は配偶者の税額の軽減について詳しく説明致しますので、相続が発生してこれから遺産分割協議をする必要がある方や、遺言書を作成しようとお考えの方はご一読頂けたら幸いです。

1. 制度の概要

配偶者は相続税を納める必要な無いと聞いたのですが本当ですか⁉

こちらは間違った認識になります。なぜなら被相続人の方の財産が多額であった場合には、配偶者も相続税を納める必要があるからです。

どのくらいの財産から相続税がかかるか説明致します。

配偶者が取得した正味の遺産額(相続又は遺贈により取得した財産の価額等から債務・葬式費用を控除した額を言います。)が次のどちらか多い金額以下だった場合には、配偶者は相続税を納める義務はありません。

1億6,000万円
配偶者の法定相続分相当額

これだけでも配偶者の税額の軽減をご理解くださる方もいらっしゃるとは思いますが、⑴と⑵の条件を1つ1つ詳しく説明致します。

2. 正味の遺産額が1億6,000万円以下の場合

配偶者が取得した正味の遺産額が1億6,000万円以下であった場合には、相続税がかからないことになります。したがって被相続人の財産が1億6,000万円以下であったら、例え配偶者が全て取得しても相続税を納める必要はありません。

しかし配偶者の税額の軽減によって納めるべき相続税が0円になったとしても、正味の遺産額が基礎控除額を超えている場合には申告期限である相続の開始を知った日(亡くなった日)の翌日から10ヵ月以内に税務署へ相続税申告書を提出しなければならないため、ご注意ください。

「基礎控除って何?」という方はこちらのブログで詳しく説明していますので、ご一読頂けたら幸いです。

3. 配偶者の法定相続分以下の場合

配偶者が取得した正味の遺産額が1億6,000万円を超えている場合でも、配偶者の法定相続分以下であれば配偶者に相続税はかかりません。具体例を挙げて説明致します。

相続人

【具体例】※正味の遺産額を4億円とします。

4人家族でお父さんが亡くなったとします。その場合には相続人はお母さん・長男・長女になります。

配偶者の法定相続分は1/2であるため、お母さんが正味の遺産額を2億円(4億円×1/2)取得してもお母さんは相続税を納める必要はありません。

なお、配偶者の法定相続分は相続人が配偶者と誰になるかによって変わってきます。下記の表をご参照ください。

相続人の組み合わせ 配偶者の法定相続分
配偶者と子ども 1/2
配偶者と直系尊属(被相続人の父・母) 2/3
配偶者と(被相続人の)兄弟姉妹 3/4

被相続人の正味の遺産額が1億6,000万円以下の場合には配偶者は特に相続税の心配をする必要はありませんが、1億6,000万円を超えた場合には遺産分割の内容次第で配偶者も相続税を納める必要があると覚えていて頂けたら幸いです。

4. 留意事項

配偶者の税額軽減はこのように配偶者にとって相続税の負担を大幅に減らせる最高の制度となっていますが、注意しなければならない点もあります。

それは【相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象とならない】という事項です。

相続税の申告期限は相続の開始を知った日(亡くなった日)の翌日から10ヵ月以内ですので余裕があると考えてしまう方もいらっしゃいますが、大きな間違えです。

なぜならその10ヵ月の間に被相続人がどんな財産を所有していたか、支払わなければいけない債務はいくらあるかについて調査したり、銀行や証券会社に依頼して亡くなった日時点の預金・株式等の残高証明書を取得したり、また財産の相続税評価額を算定する必要があります。

更に相続人間で誰がどの財産を取得し債務を負担するかについて話し合う遺産分割協議も申告期限までに行います(遺言書が残っている場合には、遺産分割協議は不要になります)。

相続人間で揉めてしまうと10ヵ月以内に遺産分割協議を終了し相続税申告書を税務署へ提出することは非常に困難になってしまうため、意外と10ヵ月という期間は余裕がないと考えて頂く必要があります。

もし相続税の申告期限までに遺産分割協議が終わらなかったら、どうしたらいいですか?配偶者の税額の軽減が適用されないと配偶者の税負担が増えて困ります…。

遺産分割協議が終わらない場合にも最終手段があります。それは相続税の申告書に【申告期限後3年以内の分割見込書】を添付して提出するという方法です。期限までに終わらなかったとしても諦めずにこの見込書を税務署に提出するようにしてください。

そして見込書の名前の通り、申告期限から3年以内に遺産分割協議が完了し分割した場合には、配偶者の税額の軽減の制度が適用できます。

なお、申告期限から3年以内に遺産分割協議が完了し分割した場合でも、分割できないやむを得ない事情があり かつ 税務署長の承認を受けると、当該事情が無くなった日の翌月から4カ月以内に分割されたときに限り配偶者の税額の軽減の制度が適用できます。

5. 制度趣旨

配偶者の税額の軽減は前述した通り、配偶者の相続税の負担を大きく減らすことが可能になります。

非常にありがたい制度だわ。でもこんなに優遇されていいのかしら…。

被相続人の方の財産が1億6,000万円まで相続税がかからないことに驚かれる方も多くいらっしゃいます。弊所が対応する相続相談会でよく配偶者の方から将来の相続税の負担が心配との相談を受けますが、この配偶者の税額の軽減の話をしたら「1億6,000万円も財産無いわ。心配しなくていいのね、良かった」と言われることが多々あります。

このように相続税においてこんなにも配偶者にとって有利な制度である配偶者の税額の軽減が定められているのは下記の理由からと言われています。

⑴配偶者の生活保護の観点から

配偶者に多くの相続税を課してしまうと配偶者の方の生活が危ぶまれてしまいます。パートナーが亡くなっただけでも大変なのに財産まで税金で無くなると、残された配偶者の方が生活困窮者になってしまうという理由から、配偶者の方が優遇される制度が創設されています。

⑵財産は夫婦の協力で蓄積されたものであるため

配偶者が取得する財産は被相続人の力だけで蓄積されたものではありません。例え配偶者の方が専業主婦であったとしても被相続人の生活を支えていたため被相続人の財産を蓄積できたという考えから、配偶者に相続税を多額に課すのは望ましくないと考えられています。

6. まとめ

今回は配偶者の税額の軽減の制度について詳しく説明致しました。相続財産が多額にあったとしても、この制度を上手く活用することで相続税の負担を大きく減らすことができます。

遺言書を作成したり、遺産分割協議をする際はこの配偶者の税額の軽減の効果も考慮することをお勧め致します。配偶者の方にいくら財産を相続させるかによって相続税の負担額が大きく変わってしまうためです。

しかしこの制度にも大きな落とし穴があります。それは今回の相続では税負担が無かったとしても、遠くない将来に起きてしまう配偶者の方の相続(二次相続)で多くの相続税を負担することになってしまうことです。今回の相続である一次相続だけでなく、二次相続も考慮して遺産分割をする必要があります。

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