セットバックを必要とする宅地とは⁉ 算定方法も税理士が解説致しました!
住宅の前の道路が狭い場所はたまに見かけると思います。そのような宅地を相続により取得すると【セットバックを必要とする宅地】として評価減を適用することが可能です。なぜなら相続した住宅を建て替えたりした場合には、ある一定の制約が課されてしまうためです。
家の周りの道路が狭くて困っていると感じている方は、セットバックについて説明しますので ご一読頂けたら幸いです。この制度を利用することで、あなたの相続税の負担が少なくなるかもしれません。
目次
1. セットバックを必要とする宅地とは?
宅地に接する道路の幅が4m未満の宅地で将来において構築物の建て替え行う際に宅地を後退(セットバック)して道路の敷地として提供しなければならない宅地を言います。
建築基準法では道路を幅4m以上のものと定義しています。4m以上とすることで当該道路を利用しやすくなるだけでなく、緊急車両(消防用自動車・救急用自動車等を言います。)の通行がスムーズに行うことが可能になるためです。
4m未満の道路(建築基準法第42条第2項)に面する宅地は、道路の幅が4mになるように宅地の部分をセットバックして道路敷として提供する必要がありますが、建築物がある場合には取り壊すしかなくなるため流石にすぐに提供することはできません。そのため将来において建築物の建て替えを行う時に提供すれば問題ないこととなっています。
その際に道路の中心線から左右に2mずつ後退した線が道路の境界線とみなされます。上の図では道路の幅が2mしかないため、上の宅地及び下の宅地のどちらも将来の建て替えの際に1mずつセットバックする必要があります。
セットバックを必要とする宅地に該当した場合には、将来において道路敷として提供する必要があることから価値が下がることを相続税の評価上反映するために、セットバックをしなければならない部分について70%相当額を控除することが可能です。
【留意事項】
特定行政庁(人口25万人以上の市)がその地方の気候、風土の特殊性、土地の状況により必要と認めた場合には都道府県都市計画審議会が審議を行います。その審議で指定した区域内においては、道路の幅員は通常の4mではなく6mとなっています。
ちなみに埼玉県の春日部市と越谷市が幅員6mの区域を指定しています。春日部市と越谷市に土地を所有している方はセットバックを必要とする土地に該当する可能性が高まりますので、制度の適用を失念しないようにご注意ください。
2. 道路の向こう側が川である場合
上の図のように道路の向こう側が川やがけ地、線路敷地等に沿っており、向こう側の道路を拡張できない場合には上記1のように道路の中心線から左右に2mではなく、川等の境界線から4mまでセットバックする必要があるため注意が必要です。その場合にはセットバックを必要とする宅地も大きくなり多くの評価減が見込まれます。
3. 道路の幅が4m未満でも非該当の場合
宅地に接する道路の幅が4m未満でもセットバックを必要としない場合があります。それは当該道路が建築基準法の道路に該当しないケースです。そもそも建築物の敷地は幅員4m以上の建築基準法上の道路に2m以上接しなければならないとされています(建築基準法第42条・43条)。
建築基準法の道路に該当しない道は人が住むことを前提としていない単なる通路として取り扱われます。これに該当した場合には例え幅員が4m未満であってもセットバックをする必要がなく、評価減も適用されません。もしこのような土地にもセットバックを必要とする宅地に該当するとして評価減を行って相続税申告書を税務署へ提出した場合には、後日否認される恐れがあります。
建築基準法の道路に該当するか否かはその道路が所在している市区町村に確認を取ると調べることができます。市区町村によってはインターネットでも建築基準法上の道路種別を地図を見ながら確認できるところもありますので、所在する市区町村のホームページをご確認ください。
4. 算式
セットバックを必要とする宅地に該当した場合には下記の算式で土地の相続税評価額を算定します。セットバックが無いものとした価額からセットバック部分に対応する価額の70%相当額を控除します。
A-A×(セットバック部分の地積)÷(総地積)×0.7
※A:セットバックが無いものとした場合の価額
5. 具体例
【事例】全面の道路が2mしかない宅地の評価(A:45,000,000円とします)
上記の算式に当てはめると
総地積 :150㎡(15m×10m)
セットバック部分の地積:10㎡(1m×10m)
⇒45,000,000円-45,000,000円×10㎡÷150㎡×0.7=42,900,000円
6. 弊所の取り組み
相続税申告を行う際にセットバックを必要とする宅地に気づかずに土地を評価しがちです。確かに上記5の通りセットバックが必要となる面積自体が少ないためこの制度を適用しても多くの評価減は見込めないですが、納めるべき税金は少しでも低い方が望ましいです。
税理士事務所スプリングでは被相続人の方が所有していた土地がセットバックを必要とする宅地に該当した場合には、必ずこの評価減を適用するようにしています。弊所が行っている確認手段は下記の通りです。
⑴現地調査
実際に現地に行ってメジャーで評価宅地が接する道路を測ってみます。ここで4mに達していない場合には、建築基準法第42条第2項のセットバックを必要とする宅地に該当する可能性があると考えます。
⑵公図で確認
現地調査が難しい遠方の土地の場合には、評価する宅地の公図を登記情報提供サービスで取得し三角スケール(縮尺定規の一種です。)で評価宅地が接する道路を測ってみます。こちらも上記6⑴と同様に幅員が4m未満の場合にはセットバックを必要とする宅地に該当する可能性があると考えます。
また上の図のように公図を見ると周辺の宅地が既にセットバックを行っていた場合には、建築基準法第42条第2項に該当する可能性が高いです。セットバックを必要とする宅地に該当する土地であると気づくきっかけになりますので、注意して公図を見るようにしています。
⑶市区町村に確認
上記3で説明した通り例え幅員が4m未満であっても建築基準法の道路に該当しない場合にはセットバックをする必要がないため、上記6⑴⑵でセットバックを必要とする宅地である可能性があるものは全て評価対象地の所在する市区町村に電話したり、インターネット上の市区町村公式の地図で確認を取ります。
ここで調査対象の道路が建築基準法第42条第2項の道路に該当することが分かったら、セットバックを必要とする宅地に該当するとして評価減を適用します。
7. まとめ
セットバックを必要とする宅地に該当した場合には、セットバック部分に対応する価額の70%相当額を控除することができます。宅地の評価額は大きく相続税の納付額に影響しますので、セットバックは確認するのに手間がかかりますが少しでも土地の価額を下げるために必ず適用するように対応しております。
またセットバックを必要とする宅地が空き家になってしまい相続人の方々が土地の売却も検討している場合には、セットバックが原因で土地の売却価格が下がってしまう可能性が高いことも事前にお伝えしています。思ったよりも低い金額でしか売れずに後悔されることを防ぐためです。
税理士事務所スプリングではお客様の税負担が少なく済むように、様々な特例を適用して評価額を可能な限り下げてから、相続税申告書を税務署へ提出しています。ご相談等がございましたらお気軽にご連絡ください。